Quadrifolium's blog

元海外赴任サラリーマンの独り言です。

人工知能なんて知らんわ!

AI Failure Example: Widespread Across The Enterprise | Enterprise  Digitalization

会社から「今年これやってね。」と言われているテーマに深く関連するキーワードを入れてグーグル検索すると論文が大量にヒットする。それぞれが100~200回も引用されていて,ざっと見た感じ,すぐ思いつくような手法は大体全部すでに試行されていて,長所や短所も整理されているように見える。やる気がなくなってきた・・・。例えていうと,さあ登山して頂上を目指そうと思ったら山道が足跡だらけでその周りにはいっぱいゴミも落ちてて,すでに大勢が登った後でしたってことを嫌でも見せつけられるという感じ。

AIって,ブームとか言われるけど,もう技術が飽和してると思うんだよね。ちょっとしたことをAIでやろうと思って調べると20も30も異なる技術があって,どれも性能的にはドングリの背比べみたいな。既存技術がすでに充実しているので,そことの差をつけるのがどんどん難しくなってきてる。結果として,新しい論文はすごく複雑で手の込んだAIを実装して何とかして既存手法を上回ろうとするものが多くなっているが,そういう難解なモデルは実装して使いこなすのも大変だから,現場のデータサイエンティストたちは敬遠して使わない。だから先端AI研究がビジネスに及ぼすインパクトは正直言って限定的だ。というか,既にある枯れた技術でたいがいのビジネス課題に対応できるところまできている。だからAIビジネスのうま味はどんどん無くなっていっている。これは要約すると2つの理由があると思う。

  • まず,最先端AIを使う以前の初歩的なレベルでつまづいている会社が世の中にはあまりにも多い。たとえば,社内に統一したデータベースが整備されてなくて,みんなてんでばらばらのエクセルシートにてんでばらばらのフォーマットで大事なデータを保存していたりする。そういうのを整理するだけですんごい労力がかかるので,とても先端的なAIを試すところまで到達しない。
  • そもそもAIというのは,0を1にする技術ではなく,100を103くらいにする技術だというのが本質だと私は思っている。100を200にすることは通常不可能。せいぜいうまくいったとして110くらいだと思う。だから,分母が大きい企業が有利になる。たとえばある会社Xが年間売上1000億円として,そこにAIを導入することによる効果が1%あったとすると,10億円になる。これならAI入れる価値はあったよね,となる。しかし,年商1億円の企業だったら,その1%として,100万円の効果しかない。それだとAIに投資して新しい社内システムを作るコストの方が高くつくんじゃね?だったらAIいらなくね?となる。つまりAIの効果を実感してもらうためには,でかい企業に営業をかけるのがよい,という結論になる。しかし日本には,そんな大企業は限られた数しかないので,営業をかける先がすぐ枯渇してしまうのだ。で,やむを得ず,一部の大企業に繰り返し営業をかけてAI導入を進めていくと,未着手の課題がどんどんなくなっていき,徐々に難しい課題だけが残っていく。そういう厄介な課題というのは,各業界ならではのマニアックな専門知識がないと理解できないような特殊な設定のものが多い。そういう問題に対処するための技術はAI業界ではまだ開発されていないので,すぐに結果を出すことができない(生活習慣病の薬はたくさんあるけど10万人に1人の難病の薬なんて製薬企業は開発したがらないでしょ。マーケットが小さいから。それと同じで,マニアックすぎる問題はAI研究者から見ても不人気なのだ)。で,成果が出ないと会社の上層部の心象が悪くなり,予算が削減され,余計に成果が出なくなる・・・という悪循環になる。

AIやデータサイエンスを志向する理系の就活生が近年とても多いが,上記の課題をよくよく考えた上で進路を選択して欲しいと思う。